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オンラインエスノグラフィーの実際

4月4日に実施したアウラ・コキリコセミナー「オンライエスノグラフィーの進め方」の結果報告

<実査の状況>

 機縁法でリクルーティングし、ZOOM接続テストの時にキッチンの全体を撮影させてもらった。
1回目オンラインエスノグラフィーで、その日の夕飯の調理(豚汁とビビンバ)をしてもらいその様子をZOOM経由で我々が行動観察した。
インターバル中に観察者同士でブリーフィングを行い気づきや疑問点の生理を行った。
30分後の第2回オンラインエスノグラフィーでは、調理の動画を再生・停止しながら対象者にインタビューした。

<発見された4つの生活文化>

 今回のオンラインエスノグラフィーで4つの生活文化が記述できた。この分析を深めることで生活文化から思考のリフレーミング、イノベーションへの道筋が解明できそうである。
まず、キッチンの生活動線について、「キッチンは合理的な動線設計というコンセプトで固まっている。
しかも、ひとり作業の動線を前提にしている。これは批判ではなく、高度成長期以前から核家族をターゲットにした住宅設計が行われ、それが大衆に支持されてきたことの現れである。キッチンにひとりの人間が立つことを想定した方が合理的な動線設計ができるし、家事の男女分担がはっきりしていた時代は問題はなかった。今回の対象家庭はご主人は全くキッチンに入らないとのことで夫婦間の動線はよいとして、娘が「手伝いたい」と言い出した時、2人で入ると入れ替わり(すれ違い)ができず、娘にはひたすら揚げ物を担当させるしかなかった。という弊害が観察できた。これは、住宅設計の新しい課題かもしれない。
2つ目の生活文化は「調理作業は準備から調理、盛り付け、片付けまでの一直線(線形)のプロセスであるが、途中にいくつかのサブループがある」という発見である。鍋で野菜を炒め始めてから冷蔵庫まで肉を取りに行き、外したプラトレーをゴミ箱に捨てに行く。調理の火加減が安定したらシンクにある食器類を洗い、ゴミをゴミ箱に入れ、手を洗い調理に戻る。などである。後者の調理の途中で洗いものというサブループは新機能の洗剤開発のヒントかも知れない。
3つ目の生活文化は、「健康意識に明らかな線引き」があることで、個人差はあるだろうが「ここまではこだわるが、その先はどうでもよい」という線引きである。今回の観察では全部飲み干すものは健康にこだわるが、汁は残すものはこだわらないとの線引きであった。スープや味噌汁の調味料は本格的なものを使うが炒め物には顆粒の調味料。味噌汁はブリタの浄水器だが茹で汁は水道水。などである。
4つ目は「清潔志向に汚れと穢の区別がある」ことである。汚れた調理道具は洗って清潔にすべきだし、切り落とした大根の葉は汚れはないが、穢たのでゴミとして捨てるという行動にあらわれていた。穢意識は顕在しないが潜在的にはありそうである。

最後に直接行動観察から発見できたことではないが、キッチンを巡る母娘のきずなは娘が結婚してから、さらには子供ができてから強くなるようで、親子関係のときはさらっとしたものでありそうである。育てている、育てられている状況では親(支配)子(被支配)の関係性の方が強くキッチンでの交流でも教え(主)・教えられ(徒)のきずなである。それが娘が結婚すると母娘は対等になり情報交換がスムーズになってきずなが深まる。
マーケティングでも対等になった親子関係の市場開拓の余地がありそうである。

 

2022.4

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