コラム
今週の話題:新リエゾンインタビューから集団的記号創発システムへ
定性調査・マーケティングインタビューとAI(LLM)の関係で最も破壊的イノベーションはAIペルソナの確立であろう。
生身の人を「集め、しゃべらせ、議論させる」より、AIペルソナを使えば、時間、空間、費用的に圧倒合理化が達成できる。
マーケティングリサーチ分野で、調査の企画、調査票(フロー)の作成ではAIの活用が進んでいる。企画書はヒナ型に落としやすい、調査票はAI以前から過去のコピペで骨子を固めていた。
AIは回答選択肢を集めるのも非常に優秀である。
集計・分析・報告は、毎回の調査テーマがひどく狭く限定されるので、汎用的AIでは対応しきれない。データの前さばきで使って最終的には人間が全チェックを行っている。また、機密情報が含まれる場合もあるので安易に汎用AIにデータを
流せない。
マーケティングリサーチの基礎の基礎である調査対象者をAIで代用するAIペルソナの試みも行われている。自分は使った
ことがなく、結果レポートを見たことがある程度だが、印象として、プレ調査、企画書を書く時の「探り」には使えるという
評価である。
AIペルソナの特性は、「いつでも、どこでも、どんな質問にも回答して、謝礼は不要」という軽さであり、軽さ故の問題点
として、AIの回答は「記号接地していない」ことがあげられる。つまり、論理的だが現実感がないのである。
現実にがんじがらめにされ、認知の客観視、言語化ができない(対象者の3つのアポリア)生身の人の対象者と好対照 をなす。
ここで、AIペルソナではなく、AI一般の問題として、Preferred Networks社長の岡野原さんのコメントを提示する。
「現在のAIの問題として継続学習、つまり継続的に経験を蓄積し、環境に適応し続けることができないことが挙げられる。
モデルは一度学習されると基本的に固定され、長期的な相互作用や個別経験を十分に取り込むことが難しい。
新しい知識を学ぶたびに古い知識を失う破滅的忘却が起きやすい」つまり、AIペルソナは自らは変化も成長もしない
「でくの棒」なのである。
我々が開発したリエゾンインタビューの目的のひとつに、対象者の自由な発言空間をつくることがあった。
通常のインタビューは、モデレーターと対象者の関係が上下関係に固定される構造を持っている。我々はそのことに比較的無頓着にモデレーションを行い、対象者を委縮させているのである。「依頼・受諾、質問・回答、(謝礼の)
支払・受取」それぞれの関係が固定されているので、最初から最後まで上下関係は崩れない。
これはモデレーションテクニックだけ崩すのは難しい。
これが崩せない限り、対象者の自由な発言の保証はない。
そこで、我々は、リエゾンインタビューを開発し、対象者2人が自由なおしゃべりができる空間を作った。
まず、モデレーターは質問・回答のパターンを設定せず、2人だけのおしゃべりの空間をセットする。そのために、
インタビューの数日前にインタビューフロー(の骨子)を渡して、内容を開示する。内容に関して準備しなくてもよいと
伝える(準備しても構わない)。
マーケティングリサーチの基本的な考えからはバイアスを与える行為なのでタブーである。
このタブーの背景に科学的方法論への信仰がある。科学的方法論は観察対象は歪みのないサンプルとして扱う。
ノックアウトマウスのようにこちらのコントロール下にサンプルを置きたい。リエゾンインタビューのバイアスは対象者をサンプルとしてではなく、インタビューへのひとりの参加者になってもらうことを意味している。
参加者として、あらかじめ情報収集してその結果を発表(プレゼン)してもらうプロセスを組み込む。
インタビューをワークショップにしようとする意図はない。強いて言えば、ビブリオバトルのプレゼンを持ち込もうとしている
ことになる。
その先にはインタビューを調査から集団的記号創発システムに進化させようとする意志がある。
2026.5

