コラム

クライアントと消費者の間にリンクを張る

定性調査はクライアントと消費者の間にリンクを張る作業である。
クライアントが直接リンクするより間にモデレーターを媒介させたほうがうまくいく。
クライアントの調査目的が消費者の「ナマの声」を聞きたいであれば、あえて分析作業はいらず、発言録とビデオを納品すればよい。
ただ、通常、これで終わることはなく、必ず、「モデレーターさんの感想を聞きたい」と要求される。
そこで、感想を述べると「それはあなた個人の感想ですよね」と言われることがままある。
ここで「はっ?何言ってんの!」と反応したくなるが、ナマの声を聞くの先があったのね、と理解すべきである。
事前に言っておいてよ、案件だが、モデレーター側もクライアントの調査目的の「先読み」をこころがけるべきである。
企画、インタビューフロー作成段階で、クライアントから提示された調査目的の先にあると予想されるものを広く深く検討する。
ここで難しいのが、「先にあるもの」を露骨に表現にしてしまうと「そんなこと聞かなくていい、時間のムダ」とブリ-フィングで削られて しまうことである。

クライアントは「自覚的にマーケティング活動し、表現力も日々磨いていて、常に発信している」という認識でいる。
一方、我々にデータを提供してくれる消費者(対象者)は「自分の行動に無自覚で、自覚しても表現力がなく、表現する インセンティブもない」というアポリアを抱えているという認識で、我々はもデレーションする。
この認識の開きが上記の齟齬の主な原因である。
これを解消するには、企画段階で背景、調査目的、期待値はクライアントにヒアリングすればよいわけだが、それほど単純ではない。
クライアントの状況認識には「偏見と思い込み」が紛れ込んでいると考えた方がよい。
渦中にいる人の状況認識はアテにならない場合が多いという含みを持ちながらクライアントにヒアリングする。
僭越を覚悟でクライアントの認識を越えて与えられたテーマの先のストーリーを思考するのである。
この作業には、マーケティング知識、インタビュー技術、消費者理解の実践の蓄積が必要である。
すでに述べたように、これはモデレーター個人の思考実験であり、企画書やスクリプトには表現しないのが無難である。
モデレーション中、分析過程で時々思考のリンクを張ってみると思わぬ発見や分析の深まりが体験できる。

 

 

2023.10

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