コラム

intageとNTTdocomo

<TOBの報道> 9月6日にNTTドコモがインテージへのTOBを発表し、リサーチ業界が少しざわついた。
報道ではドコモの思惑の話はたくさんあるが、インテージのそれは全くといっていいほどない。
ドコモというマーケティング会社(販促会社)がインテージのリサーチ会社としてのリサーチ純粋性を犯す危険があるリサーチャーがいる。

<ドコモの目的>
報道発表では、NTTdocomoは「ドコモの会員基盤とインテージHDのデータ収集から集計・分析・可視化・マスター化などのノウハウを組み合わせ、マーケティングソリューション領域における事業拡大を目指す」ということらしい。
具体的には、「法人顧客へ会員基盤データを活かしたリサーチ・コミュニケーション・販促・リピートまで、IDベースかつ一気通貫型のマーケティングソリューションを提供。
日用消費財メーカーに向けた生活者中心のマーケティング支援や流通小売りにおけるバリューチェーンのトータル支援を行っていく。
さらにCS・ES領域における新規事業領域への進出や、耐久消費財メーカー・サービス企業に向けたフルファネルマーケティング支援、ヘルスケア関連産業における社会課題解決力の強化にも取り組む」とある。
これを書いたドコモ社員も理解してなさそうな壮大なことだけがわかるプロジェクトである。
なにせ、9600万のdポイント会員は日本の人口(子供老人む)1億2000万の8割をカバーすることになる。
これをIDの基盤としてインテージの分析力を融合してマーケティングのあらゆる部分の企画・実施・検証のサイクルを実現するプラットフォームを提供する、と読める。
壮大かつ無謀な構想ではないか。
ただ、すでにインテージは、ドコモインサイトマーケティングと業務提携してるのでTOBには別の理由がありそう(今回は考えない)。

<マーケティングリサーチのマーケティング嫌い>
市場調査(リサーチ)は消費者を含む市場の実態を科学的に測定しようとする。
それは特定のメーカー、消費者団体、行政に忖度することなく客観的なデータの収集と分析をめざす。
誤解を恐れずに言うと、マーケティングの最終目的は売上と利益の最大化であり、継続的な「金儲け」システムの構築である。
前々から思っていたことだが、リサーチャーにはマーケティング嫌いが多く、金儲けの片棒を担ぐことを潔しとしない心情がある。
マーケティングに組み込まれるとリサーチは独立性を失い、科学を捨てて資本主義の軍門に下るとでも言えばいいのかもしれない。
今回のTOBはインテージが中心メンバーのJMRA綱領「リサーチに名を借りた販促活動の禁止」に抵触するのではと考えている人は多い。

<マーケティングリサーチの今後>
客観的、科学的リサーチはマーケティングからの侵略とともにAI、ビッグデータ、データサイエンスからの攻撃にもさらされている。
ランダムサンプリングだの有意性など議論しているより、データを膨大にかき集め、コンピュータをぶん回すだけでChatGPTができてしまった。(もちろん単純化し過ぎだが)
ネットリサーチで収集したデータを生成AI(ChatGPT)に通せば、集計、分析、レポーティングの雛形が出てくる世界がすぐそこにある。
今後、JMRA加盟のリサーチ会社が行っているマーケティングリサーチがすぐに無くなるとは思えないが、こうした外部環境の変化に対応していく必要はある。
その時、「純粋リサーチ」にこだわることは得策とは思えない。 
純粋リサーチはマーケティングの現場を第三者的立場で見ることであり、現場の結果責任を負わない特権と結びつく。
自らをコストセンターとし、プロフィットを求めない。 これでは合理化、削減の対象にしかならない。
どうすればよいかの提案はなかなか難しいが、とりあえず、TOBされる側ではあるが、JMRA内だけでも、インテージからの何らかのコメントがあってもよいのでは。
JMRAの綱領は日本国憲法のような神話性はないのだから改訂を考えるきっかけにしてほしい。

 

 

2023.9

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