コラム

リスキリング:質問文とインタビュースクリプトの相互貫入

定量調査の質問文・回答選択肢の作成と定性調査のインタビュースクリプトの作成は別々の作業とされることがほとんどである。
今回はリサーチ技術のリスキリングの手法のひとつとして、調査票作成時に「定性ならどう聞く?」、インタビュースクリプト作成時に「定量ならどんな質問文?」と問い直すことを提案する。

マーケティングリサーチは帰無仮説が棄却うんぬんよりも、作業仮説それぞれの数値、割合、平均値などを確定する目的で行われる。
あるキャンペーンの効果の有無をp値で判定することは少なく、キャンペーン実施前後で認知率、購入(意向)率を数値として把握して「総合的の効果測定する」という方法をとる。
定量調査の作業仮説作りは、質問文と回答選択肢作りとイコールで、内容や言葉の定義を明確にしあいまいさをなくす作業である。
 製品ジャンル、対象者を限定し、質問文と選択肢の意味の自由度を少なくし、一意に決め込んでいく。

マーケティングインタビューでも仮説を作るが、強い思い込みにならない柔軟さを保つことが大切である。
調査票にあたるインタビュースクリプトとはプロットであり、現場の自由度(アドリブ)に頼って「新発見」につなげるように作成する。
自由な話し合いと言いながら、テーマにはフォーカスさせ、なおかつ、自由度を失わずインタビューをコントロールできるスクリプトにする。 

調査質問文・回答選択肢の作成とインタビュースクリプトの作成は別工程である。 クライアントのリサーチ部門、リサーチ会社ともに別々の担当者、別の部門に分離され、キャリアの交流も少ない専門分野になっている。
このことは、専門性の醸成には役立っているが、定量と定性で異なる結論・解釈になったり、数値の裏打ちのない定性は信用できないとのクレームなどの齟齬を生むことにつながっている。
元々は同じリサーチテーマの探索であり、別工程とはいえ相互に協働することがよい結果を生むはずである。
協働をめざすには組織・人事の再編成が必要だが、とりあえず、企画段階、特に調査票、スクリプトを作成する場面でのリスキリングを考える。
具体的には、調査票作成時は「インタビューだったらどう質問するか」「対象者はどう答えるだろうか」と自問することである。 これによって、常識的にそうは質問しないだろう、この選択肢の表現はジャンルが違うだろうといった気づかずに陥っている思い込みのチェックができる。
インタビュースクリプト作成時は「調査票として統一感があるか」と問うことで、スクリプト全体のストーリー性の確認ができる。 

リサーチ業界では過去の調査票(質問文・選択肢)とインタビュースクリプト(発言録)のファイルの積み上げは相当量になっている。
これらを参考にすれば、素人でも調査票、インタビュースクリプトが簡単に作れる状況が生まれている。
形式は真似ればいいので一見すると問題ないがものができるが、実査に移すとスムースに動かない、結果が読めない事態が発生する。
リサーチャーの重要なスキルである質問文・選択肢・スクリプトの作成は別々にスキルを磨くより、「マルっと」一緒にリスキリングするのが有効である。    

 

2023.2

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