コラム

「中動態」マーケティングとは

聞き慣れない概念、中動態をマーケティングに適応する方法を考える。
確かな見通しはないが、マーケティングの閉塞を破る可能性を感じさせる概念といえる。
この概念は言語学に由来し、非常に古い割には最近話題になりつつある不思議な概念である。
いろいろ本を読んでも1950年のバンヴェニストの「中動態論文」と呼ばれるものがベースになっている。
動詞の態の問題で、能動態と受容態があることは学校で学んだ。
バンヴェニストは能動と受動の間、中間にある態としての中動態を考えるのではなく、能動と中動を対比させている。

バンヴェニストは以下のように言う。
能動において、動詞は、主辞から発してその外で完遂するような過程を表している。
「行く」や「流れる」は主辞の参与が必要とされない過程である。
中道においては、動詞は、主辞が過程の座となるような過程を示している。
「生まれる、眠る、うめく(苦しむ)、想像する、成長する」等は主辞のうちに完遂する。
能動は、主辞が過程の外部にいて、主辞が為すことにしたがって、中動は主辞が過程の内部にいて、主辞が自ら影響をうけつつ為すことにしたがって、動作主としてこの主辞を形容することに帰着する。
バンヴェニストは、能動態と中動態の対立を、主辞が過程を「支配」するのか、それとも過程の「影響」を受けるのかという、主辞と過程の支配関係の対立として特徴つけている。
以上、『言語の中動態、思考の中動態』からの引用を加筆した。

この中動態概念をマーケティング、マーケティングリサーチに適応しようとする時、
①主体・客体構造、能動・受動構造を崩し、業務遂行プロセスに中動態概念を取り込む。
②マーケティング諸活動はある「場」の中で自己完結的であることをはっきりと認識する。
③マーケティング活動は作用態(体)と被作用態との相互干渉で発展する。

の3点に注目して考えて見る。思考実験であり具体性は深く考えない。
日常のマーケティング活動で我々は明示的にあるいは暗黙のうちに主体と客体、能動と受動の区分けを行っている。 }メーカー、マーケターは主体的に消費者に働きかけ、消費者はその働きかけに受動的に反応する枠組みを想定している。
消費者視点の発想やCGMなども、遂行場面では主体(能動)vs客体(受動)の関係性が強固である。
この強固な関係を一度崩してみることで、マーケティングの革新の契機としたい。
そのために中動態概念の導入を試みる。
中動態概念では、メーカー・マーケターは外部に市場を設定し、外からマーケティング施策をコントロールするのではなく、市場の内部にいて、消費者の反応に影響されながらマーケティングを遂行することになる。
さらに、中動態マーケティングは特定の「場(市場)」の中で自己完結する。
これは、STPのS概念を先鋭化したもので、マーケティングの遂行は限定された場の中で完結していて他の場への流用はできない。

中動態マーケティングは、メーカー・マーケターの「場」はメーカー・マーケターの中にあり、そこで自身の作用と消費者からの反応のフィードバックを受けて変化する過程である。
現在のマーケティングは、マーケターの外部に場を設定し、外部からコントロールしているのでPDCAのサイクルが線形である。
それをシステム内部に組込み、機械学習の「誤差逆伝播」のようにフィードバックを自動化することである。
今回はあくまでも具体性を考えない概念だけの検討である。

 

2022.8

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