コラム

レジリエンス思考とマーケティング

レジリエンスとはシステムが衝撃を吸収する能力であり、変化をこうむりながらも基本的に同じ機能・構造・フィードバックを保持していられる 能力と定義される。
我々は様々なシステムの中で活動し、その活動は当のシステムを含む生態系と分かちがたく結びついている。
システム内での活動は生態系に影響を与えるし、生態系の変化は必ず我々のシステムにそれへの対応を求める。
つまり、システムを包含する生態系は複雑適応系である。
複雑適応系だから、その変化は、予測可能でも、線形的でも、段階的でもない。
システムは内部、外部からの衝撃や擾乱(火災・洪水・戦争・市場変動)が加わり、システムの閾値を超えるとレジームチェンジ(シフト)が起こり、ほぼ、元のレジームには戻らない。
閾値を超えるとは新たなアトラクターに落ち込むことであり、再びもとのアトラクターには戻れない。
新たなレジームで生きていくしかない。
そういった閾値が問題になる変数はシステム内のいたるところにあり、遅い反応の変数である。(気づいたときは遅い!)
システムのレジリエンスは閾値までの距離として測定できる。

我々は、しばしば複雑適応系であるシステムを含む生態系に対して、「指揮・制御型」の管理を持ち込む。
効率、スピードを考えれば当然の戦略である。
指揮・制御型の管理は、システムの一部に影響を与えようと実行されるが、システム全体(生態系)は複雑適応系なので管理が狙った一部以外も反応し、二次的フィードバックが起こって招かれざる不測の事態を招くことがある。
指揮・制御型管理は、システムをコグ=歯車ワールドと考えるが、現実の世界はバグ=虫ワールドなのである。
バグワールドは、構成要素(虫)が互いに独立しつつ相互作用しており、構成要素(虫)の相互作用に何らかの選択性がある。
さらにシステム全体には、我々の管理とは別の変異と新規性が絶えず加わっている。
レジリエンスとは、システムがこれらの擾乱を吸収してレジームシフトを起こさない能力のことで、「持続可能性」の鍵である。

システムとは、生態系、経済、生物、脳のことで、ここで特に経済に注目し、「市場、消費者行動、マーケティング」をシステムと考える。
マーケティングも含む経済はもちろん複雑系で、市場全体の生態系の中で企業、消費者、製品、技術、生産設備、流通、ブランドなど もろもろの構成要素(バグ)が相互作用している。
経済という生態系のレジームシフトは恐慌であろうが、マーケティングでは、イノベーションであろう。
イノベーションといえば、真空管からトランジスタ、ICへの遷移がレジームシフトの典型といえる。
このレジームシフトでイノベーションのジレンマと言われる現象があるとの分析がある。
このイノベーションのジレンマをレジリエンス思考で分析できそうである。(今回はやらない)
電子部品市場システムも、企業、製品、技術、生産設備、流通、他の要素で構成されたひとつの生態系と考えられる。 生態系に棲む電子部品会社はマーケティングの要請で「効率的」な指揮・制御型の管理を持ち込んでいる。
真空管レジームの生態系が新技術の開発や製品ニーズの環境変化(擾乱)によってレジームにシフトを起こす「閾値」は生態系のあらゆる変数の変化率が分析できれば予測できたかもしれない。
予測ができれば、イノベーションのジレンマを克服できた可能性もある。
この可能性を探る方向性としてレジリエンス思考から以下の提案がある。

  • システムは複数の種類のレジームをとりうる。
  • システムの適応サイクルは、開発(急成長)、保全のフォアループと解放・再組織化のバックループに分かれる。
  • 保全状態の後期では硬直的運営やある資源の枯渇など招き、バックループにハマる。
  • バックループは一種の革命であり、従来のレジームから新しいレジームにシフトする。(まさにイノベーションのジレンマ)
  • 保全状態をできるだけ長持ちさせるにはシステムが冗長性を持つ必要がある。
  • 単一の合理性追求はレジームシフトを起こす。
  • レジリエンスのために革新が必要な場合があり、それが非常に難しいと我々はとことん愚かな構想にしがみつく。

 

2021.1

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