コラム
対象者論とモデレーション
一般の生活者は、「生活のために生活している」というトートロジーの中に生きています。
生活の目的や意義、行動の理由や意味を考えるといったことは日常的にはしません。
料理、洗濯、買物、趣味などは、その目的や意義、理由などをいちいち考えていたら、一歩も前に進めません。
自動化、習慣化された行動の繰り返し部分が大きいのが日常生活です。
日常生活のほとんどの部分は「意識化」されないのです。
この平穏?な日常生活を破ろうとするのが市場調査です。
調査の対象者になった瞬間に「生活者」ではいられなくなるのです。
生活者が「対象者になる」とは、自分の日常生活を(調査によって無理矢理)意識させられるということです。
これは、対象者にとって、
- ストレスフルで
- 理不尽を感じることもあり
- あまり、楽しくない
状況に追い込まれることになります。
特に、生活場面から離れて、見ず知らずの人間と会話をしなくてはいけないインタビュー調査は「アウェー感」が強くなります。
こういった背景から、われわれが主張してきたインタビュー対象者は3つのアポリアを抱えているという事実が理解できます。
- 自分の行動を意識していない
- 意識できてもうまく表現できない
- 表現できても「ウソ」が多い。
この3つのアポリアを少しでも解こうとするのがモデレーションです。
そのために、まず、対象者に自分の行動を意識化してもらいます。
- できるだけ正確な記憶の呼び戻し
- 自分の認知や行動を第三者の目で観察できる視点の獲得
を促すのですが、簡単ではありません。
- その日のテーマ・目的を正しく、わかりやすく伝える
- 自由に発言してよいことを確実に伝える
などの宣言と
- インタビュー中の的確なプロービング(プロービングの5原則)
で、対象者の行動・認知を対象者自身に意識化してもらうことを促します。
ある程度意識化できてもそれには、さまざまな認知バイアス、記憶の歪曲が含まれていることも考慮します。
意識化できたことを次にコトバで表現してもらうのですが、これも普通の生活者には困難です。
単なるおしゃべりではなく、こちらが解釈・分析できる表現を求められるのでハードルが高くなります。
そこで、
- 誘導をおそれずにモデレーターが言語化を直接助ける
- 対象者の沈黙に耐えて、表現を引き出す。
という矛盾するモデレーションテクニックを使い分けます。
対象者が、自分の生活を意識化し言語化できれば、良いインタビュー結果が得られるはずです。
ところがここにもうひとつの困難があります。
対象者が「平気でウソを言う」のです。
自分の本来の気持ちや印象よりも世の中で通用しているステレオタイプな表現になりがち。(無意識のウソ)
ほんとは違うのだが、ちょっと変わっていると思われのもイヤだからタテマエ的になる。(意識的ウソ)
これを見抜いて分析しないと頓珍漢な結論になってしまいます。
- 少し圧迫的なプロービングを行う
- 対象者個別のプロファイリングをインタビュー中に行う
などの工夫でテキトーに答えたどうかを識別します。
以上のようなモデレーションテクニックとは別方向からこの対象者論を超えようとするのが「アクティブインタビュー」です。
2015.8