コラム
アウトプットのデザイン
水野学『アウトプットのスイッチ』(2012)にリサーチの限界、特にグループインタビューの問題点を4つに分けて指摘しているパートがある。
① 人(生活者)は慣れたものに共感するので、新規性は評価されずらい。
② 対象者は特殊な状況で限られた情報で判断させられるので間違う。
③ 調査に参加しようと考えた人だけ集まるので偏る。
④ (①とかぶるが)対象者は既存の価値観に埋もれてるので新鮮なアイディアは出せない。
以上から、優秀な商品開発者は、調査で評判(評価)がよすぎたものは発売を見直す。
という問題点の指摘である。(文章は引用者が勝手にアレンジしている。)
リサーチャーには(自分も含めて)自虐的な人が多いのか、こういった意見に「ごもっとも!」と反応することが多い。
それではあまりに生産的でないので、これらの問題点を少しでも解決する方向で考えてみたい。
結論的に言われている「優秀な開発者は、グルインで評価(評判)が良すぎるコンセプトは採用しない」ということだが、これは全面的に賛成である。
全員が欲しい、スバラシイというコンセプトは、既存のトップブランドとコンセプトが重なっている場合が多く、対象者は自分の選択(普段、そのトップブランドを買っている)の正しさを確認しているに過ぎない。
我々の経験では、グループの1人か2人に熱烈に評価され、他の対象者に否定されるようなコンセプトが成功の可能性が最も高い。
こういった失敗(調査結果を鵜呑みにして売れなかった)の原因のひとつとして、開発者がグルイン(定性)に数(定量)の発想を持ち込んでいることが考えられる。
6人中6人が評価しているAの方が、6人中2人しか評価していないBより、いいに決まっている」という発想である。
この失敗を防ぐにはリサーチャーがしっかりと結論を述べることが第一歩である。
では、リサーチャーが自分の結論に自信を持つためにはどうしたらよいか、経験を積むことは別として水野さんの指摘にそって工夫を考えてみる。
①の人は慣れたものに共感する。というのは事実なので、インタビュー中に慣れたものを指摘してやることで、対象者もバックルームの開発者もそれに(慣れたものをいいと言っている)気づく。
- ○○さんは普段は何を買って(使って)いますか。それはいつぐらいからですか?
- その製品のどこが気に入っているのですか?
といったプロービングが必要である。
②のインタビュールームに知らない者同志が集まるのは確かに日常場面から離れた特殊な状況である。
そのための無駄な緊張を和らげるために、机・椅子を取り払って床に絨毯を敷いて座らせる、コタツを用意するなどの工夫もあるが、逆効果(かえって馴染めない)の危険が大きい。
また、実際の店舗を再現するために陳列棚を用意したりもするが、やはり普段のお店を再現するのは難しい。
簡単な工夫は、使用商品や、使用場面の写真を持ってきてもらうことである。
このことで、
- 普段の自分の世界を具体的に説明できる。
- 使用商品名の思い違いの防止になる。
などの効果が得られる。
③の母集団からの偏りは、どうにも解決できない。
見ず知らずの人達とおしゃべりするなんてとんでもないと考える人は、どうやっても参加してもらえない。
これは、生活者の生活心理は、そういった性格での差異はない、という検証されていない仮説に頼るしかない。
④も事実である。
生活者は自分の生活を意識することはほとんどない。生活のために生活するというトートロジーの中で生きている。
これを打破するには、
- 旅行先とか、外国に行ったとして
- 日本に来たばかりの外国人だったら。その外国人に説明するとして(もちろん、日本語はしゃべれるとして)
- お金(価格)や、できる・できないは考えなくていいから
などのプロービングで、自分の生活(態度・心理)を俯瞰させる必要がある。
消費者の評価をとる方法として、グループインタビュー以外の簡便な方法は今のところない。
最近、提案されている以下のような方法論も
- MROCはグルインより手間がかかる。
- ビッグデータは、行動データかテキストデータのマイニングである。評価を直接聞けない。
- エスノグラフィー(行動観察を含む)は、体系的にデザインしないと結果が読めない。
などの困難を抱えている。
とりあえずはグループインタビューが最も優れているといえる。
我々は、この方法論をもっともっと磨いていくとしようではありませんか。
2013,11