コラム

リサーチの神学論争Ⅱ

神学論争の第2弾は有意差検定です。
リサーチ会社の新人教育で必ず取り上げられます。
文系出身者の多くは、有意差検定の理解が進まないうちに実務に入りますが、現場で有意差検定をもっと勉強しておけばよかったと思うことはほとんどありません。(たぶん)
有意差検定が現場で神学論争的扱いを受ける理由として、
   ① マーケティングデータは有意差検定が必要なほど厳密な扱いを必要としない。
   ② 有意差有りのデータだけ使ったらレポートは書けない。(おそらく)
   ③ サンプリングの必要のないデータ、集計方法が多くなった。
などが考えられます。

ある調査で、「自社製品の購入率が東京30%、大阪20%という結果が出たとき東京と大阪で購入率に差があると言えるか。」を統計的に確かめる(しかも1%~5%の錯誤のなかで)というようなことが、有意差検定の例として上げられます。
どうもこの実例がいけないような気がします。(例にカミツクのは反則ですが)
マーケティングセンスがあれば、この実例からは、有意差検定よりも何らかのマーケティングアクションが必要という教訓を引き出してしまいます。
何故なら、お金をかけてリサーチする以上、「東京に比べて大阪のマーケティングはうまく行っていない、問題がある。」という程度の仮説を持っていたはずです。
(有意差検定ではこれをなんと「対立?仮説」と呼び、ますます混乱させます)
まっとうな仮説を「対立」とし、「東京と大阪には差がない」という仮説(帰無仮説)を立てて、これが棄却されるかどうかを調べようというのが有意差検定です。
(この「帰無仮説」もひどいネーミングと思いませんか。無に帰されるための仮説ということらしいです。)
しかも帰無仮説が棄却され(有意差あり)れば「東京と大阪には差がある(危険率1%とか5%)」となりますが棄却されなかった(有意差なし)場合でも「東京と大阪に差はない」とは言ってはいけないと教科書には書いてあります。「判断できませんでした」ということらしいです。
データをここまで厳密に扱うより、先ほど述べたアクションを考える方がマーケティング的には正解です。
こういった検定が非常に重要なのは新薬の有効性判断など限られたテーマだけです。
この分野は肥料・農薬を含めた(医)薬品の「効果」を科学的に判断したいという、有意差検定そのものが目的のリサーチといえます。
(サルツブルク『統計学を拓いた異才たち』日経新聞2006に詳しい。著者は製薬会社出身)

我々のリサーチでは、集計結果があがったら、数字を読み込んで行って、それぞれの数値の差のマーケティング的理由が組み立てられるなら、あえて有意差検定の必要はないと考えるべきでしょう。
重要な数値で仮説(マーケティング仮説)と矛盾する、うまく解釈できない場合だけ有意差検定を行うべきだと今は亡き後藤先生も教えています。(後藤秀夫『市場調査マニュアル』みき書房1987年 p122~139)

さらに最近のデータマイニングという考え方(集計方法)では有意差とか帰無仮説とかいう概念はあるのでしょうか。勉強不足でわかりません。

2008,8

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