コラム
話しコトバと書きコトバ
ソシュールは、パロール(話コトバ)をランガージュに含めましたが、ラング(書きコトバ)ほどの価値(分析価値)を認めませんでした。
チョムスキーの生成文法論も基本は書きコトバです。
脳科学で研究されているコトバは、話しコトバと書きコトバの区別はなさそうで、コミュニケーション手段としてのコトバと意味を生成するコトバとを厳密に区別しようとしています。
コトバを理解するボノボ、大学生より計算が早いチンパンジーなどがマスコミに取り上げられますが、人間の言語との違いは、人間の言語は、限られた単語の組み合わせであらゆる意味(新しい、抽象的なものまで)を生成できることです。(岡ノ谷一夫「脳研究の最前線(上)」ブルーバックス p187)
 我々は、定量調査と定性調査の違いを前者は数値で、後者はコトバで結果を表現するという言い方で説明します。 
      定量調査では数値の意味が重要で、定性調査ではコトバの意味が重要になりますから、データ収集の方法も定量では精確な数値を収集すること、定性ではできるだけ多様な言語表現を収集するように工夫されています。
      定量での回答は「記号の選択」が多いため、Webによく馴染みました。
      一方、定性調査の回答は「発話」でなされることがほとんどで、しかも、自発的発話が重要視されます。
      このことが、定性調査の困難と醍醐味といえます。
      もうひとつ、定性調査がWebに馴染みづらいというのもこの「発話」が原因です。
      Webグルインは書きコトバによる座談会で、「発話」が書きコトバでなされます。
      (テレビ会議システムを使って行うWebグルインは別) 
      考えてみると書きコトバ(発話)による座談はWebによって初めて可能になったといえます。
      (往復書簡は1on1の場合がほとんどですし、手紙には大きなタイムラグがあります。)
      2チャンネルに代表される掲示板、SNS、ブログへの書き込みなどもWebグルインと言えそうですが、グルインとして分析されたことはなさそうです。
ここで、書きコトバによる発話と話コトバによる発話でどちらが困難な作業になるのかを考えます。
      我々の業界では、レポート書きよりプレゼンが苦手、また、その逆という人はたくさんいます。
      簡潔なレポートを書くのに話しはくどい人、話しは面白いのに文章を書かせると意味不明な人という具合です。
      (もちろん、両方、すばらしい人もいます) 
      以上の個人差はあるものの、話しコトバによる発話は、「即時的、状況依存的、場(社会的)の制約力が強い」傾向があり、書きコトバによるは発話は「推敲性、文脈依存性、社会的制約力が弱い」傾向があります。
      話しコトバよる発話は「場の雰囲気」を生み出し、それを必要とします。
      書きコトバによる発話は「各自の世界観に埋没」しやすく、場の雰囲気は生み出しづらいのです。
      場の雰囲気は「ミニマーケット」の生成の可能性があり、各自の世界観は「専門性」につながります。
      普通の生活者にとっては話しコトバによる発話が、専門家にとっては書きコトバによる発話が得意と一般的にはいえます。
2007,12



















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