コラム

ザルトマンの「信奉理論」

みたび、ジェラルド・ザルトマン「心脳マーケティング」(ダイヤモンド社2005)です。
ザルトマンの「ZMET調査」は、博報堂が独占契約?したようです。
ZMET調査の具体的な成果が、日本でも早く出てくることを期待しています。
今回は、ZMET調査の前段階として、現在のマーケター、リサーチャーが「何故、間違うか」の原因としてザルトマンがあげていることを取り上げます。
ザルトマンは、「間違い、失敗」の原因として、

  • 課題に直面したときに、自分の信奉理論と使用理論に乖離が生じてしまう。
  • さらに誤った使用理論を(無意識に)採用してしまう。

の2点を上げています。
最初の点は、消費者重視、顧客視点に立つという理論を信奉しているマーケター、リサーチャーが現実の課題では、消費者無視、供給者視点に立った理論(施策)を採用してしまうということだと思います。
古くからある「ホンネとタテマエ」の言い換えのようなものです。

次の点は、使用理論の使い方(使うに当たっての考え方)が誤っているという指摘です。
使用理論が以下の間違った前提にたっているといいます。

  1. 消費者の思考プロセスは筋の通った合理的・直線的なものである。
  2. 消費者は自らの思考プロセスと行動を容易に説明することができる
  3. 消費者の心・脳・体・そして彼らを取り巻く文化や社会は個々に独立した事象として調査することが可能である。
  4. 消費者の記憶には、彼らの経験が正確に表れる。
  5. 消費者はコトバで考える。
  6. 企業から消費者にメッセージを送りさえすれば、マーケターの思うままに、これらのメッセージを解釈してくれる。

以上6つのうち、6番目の指摘は的を得ていません。
今時、こんなおめでたいマーケターは(日本には)いません。
1、2、4、は、我々が主張してきたことと同じ意味でしょう。(アウラHP 「面接調査の重要性」のなかの「インデプスとグループインタビュー」の項参照)
3はこれだけでは何を言っているのかわかりません。
脳科学の研究や認知心理学の進展とからめてもよく理解できません。
(地球的集団無意識みたいなことでしょうか?)

最も問題なのは、「5、消費者はことばで考える」とするのは間違った使用理論だということです。
前思考のようなフェーズがあって、考える前に脳のシナプスは活性化されるし、そこは言語野でもないということらしいのですが、うまく理解できませんでした。
考えを表現するのはコトバよりも行動でしょうし、考えなしで行動は起こります。(反射=ゴミが飛んできたら目をつむる。)
マーケティングの行動(消費者行動)にももちろんこうした行動はあります。

消費者がコトバで考えるという前提を崩してしまえば、1、2、4、6も簡単に崩れます。
そうなるとマーケティング、リサーチの大部分は不可能になります。
我々の仕事の大部分は、

日々コトバを使ってモノを考え(調査票や質問文を考える)、
自分の行動をコトバで説明してもらい(質問に答えてもらう)
コトバで記録する。(分析して報告書を書く)

というプロセスを取っています。
映像、図、絵、音などが補助的に使われることがありますが、あくまで補助です。

無意識、深層心理の世界には、コトバは必要ないと言うことでしょうか?
最初に深層心理、無意識に目を向けたフロイトは、過度に性に頼って失敗しました。
ザルトマンがマーケティングで最初に深層心理、無意識を理論づけたとする栄誉によくするには、この「消費者はコトバで考えない」ということを脳科学のコトバでなく説明する必要がありそうです。
ZMET調査が世の中を席巻してしまえば、そんな必要もなくなりますが。

2005,8

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