コラム

ザルトマン恐るべし

前回も書きましたが、ジェラルド・ザルトマン「心脳マーケティング」(ダイヤモンド社2005)を読みました。
読んでる途中では、「アメリカでは、マーケターとリサーチャーがほぼ同義で扱われ始めたようです。」などと呑気なコメントをしていましたが、それどころではない内容を含んでいました。
帯には「ハーバード・ビジネススクールが挑む心理学×脳科学の複合領域アプローチ」とたいそうな惹句が並んでいます。
目的は、その下にある彼らが開発中の「ZMET調査の実践法を紹介!」にあるのですが、これも当然のように 本を読んだけでは「実践」できないようになっています。
ザルトマン先生、ZMET調査によってマーケティングに革命を起こそうと意気込んでいます。
ZMET調査とは、メタファーを多用したインタビューとレスポンスレイテンシー(脳の生理的反応)によって消費者の「無意識」「深層心理」を解明し、マーケティングの諸概念、例えば、セグメンテーションという概念を根本的に作り直そうというもののようです。
ザルトマン先生の既存マーケティングの否定、限界の指摘はよく理解できますが、自分達のZMET調査へ持って行こうという意図が前面に出過ぎていてほほえましくもあります。

既存のマーケティングリサーチは全面的に否定されています。小気味がいいくらいです。
ネットリサーチがどうのこうのというリサーチ媒体のことではなく、基本的な方法論に限界があり、間違った判断をマーケターに強いているとおっしゃっています。
定量調査、定性調査ともになで切りですが、特に定性調査、中でもフォーカスグループインタビューは完膚なきまでズタズタにされています。
まず、「フォーカス・グループは、自然科学や社会科学、人文科学のいずれの分野においても学問的根拠を欠くという点で、決定的な欠陥を持つ。」と出生・血統・育ちについて「卑しさ」が断罪されます。
だから、フォーカスグループは止めてZMET調査にしなさいと言うかと思ったら、グループではなく1on1のデプスインタビューにしなさいとなります。
デプスインタビューは、学問的根拠があるのかと苦情を言いたくなりますが、さらにグループなら司会者を入れて3人のグループが最適、フォーカスグループの分析には専門のアナリストを雇いなさい、と最初の居丈高な主張がトーンダウンいています。
結論は、8人も10人ものグループインタビューは、グループとして有効に作用しないから、1on1を8人、10人やりなさい。それではお金と時間がかかるというなら3、4人のグループにしなさいということらしい。

このことは、我々フォーカスグループの現場の人間はだいぶ前から気づいているし、時にはクライアントに提案をしています。(1グループは6人でも多い。3~4人が理想と。)
でも人数をこなしたい(上司から「何人の消費者の意見だ?」と聞かれるのを非常に恐れる)クライアントの要望の前にはかない提案となっているのが現状です。(8人確保のためにオーバーサンプル?)
また、学問的根拠がないという批判に対しては、「なら、マーケティングの学問的根拠は?、経済学の学問的(科学的)根拠は?」と問いたくなります。
学問的根拠があろうとなかろうと、「有用」であれば採用するのがマーケティングではないでしょうか。
我々の生活そのものが、学問的根拠とは無関係なのですから。

ザルトマン批判はこれくらいにして、我々はこの苦言をしっかり受け止めていく必要があります。
ザルトマンは詳しく述べていませんが、フォーカスグループにおける「バックルームも含めたグループシンク(集団的浅慮・愚考)」と言われる弊害について特に検討していくことは重要そうです。
これは、フォーカスグループの特性(利点)でもあるので。

2005,7

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