コラム

MIDサイクルを回す

PDCAは、あのデミングが提唱者と言われるが、本人は認めていないようである(wiki)。
デミングといえば品質管理であり、品質管理は工場で磨き上げられてきた。
工場とは、敷地、建物で外部環境から独立した閉鎖環境で、インプット(原材料とエネルギー)、処理(機械と工員)、アウトプット(完成品) を完全管理することで効率化を達成している。
原材料、機械、従業員の管理、作業手順も設計(Plan)することができ、出荷する製品の数、機能・性能、時期も計画できる。
この環境下での業務改善、効率化の計画(Plan)は生産目標(数値)か歩留まり(数値)になることが多い。
工場の立ち上げ段階でない限り、能力を超えた計画はありえず、達成できる(できそうな)数値が計画として採用される。
実行(Do)も手段のバリエーションは限定的であるので簡単というか、突飛なDoはない。
結果の「チェック」は完全コントロール下にあるので精確な数値で評価できる。
対策(Action)も根本的な改革(工場の解体・再建)は別の課題であるので予想の範囲内になる。
対策は新たな計画となり、品質管理、効率化、業務改善のスパイラルができるのである。
以上がPDCAサイクルで、これをブンブン回すことが重要であると言われている。
このPDCAサイクルを回すことの優位性が工場だけでなく、マーケティングなどでも標榜されるようになって久しい。
マーケティングなどの現場で採用されるPDCAの問題点として、

①早い時期に改善策の袋小路にはまり込み、サイクルが回わらなくなる。
②計画通り進んだかどうかのチェックが主で、計画そのものの妥当性、正当性をチェックする視点がない。
③外部環境の変化には対応できない。

などが指摘できる。
マーケティングは、複雑で予測不能な外部環境に開かれており、自分達がコントロールできる部分は少ないオープンな世界である。
消費者も競合メーカーも「どう動くか」予測できないし、天候気候、社会状況の変化が直接影響するのがマーケティングである。
変化が激しい外部環境によって、計画も実行も定まらず、計画そのものが妥当性を失うことが頻繁におこる。
チェックのためのリサーチも「交絡要因」が多すぎて信頼性が低くなり、それに基づくアクションも切れ味が鈍る。
マーケティングの世界に単純にPDCAを導入してもうまく機能しない。

オープンで複雑な環境では、PDCAではなく、MIDサイクルを回すべきである。(Marketing、Innovation、Delivery)
MIDのMはマーケティングで、ここでいうマーケティングとは市場観察、継続的な分析で、具体的にはターゲットが持つ「不足、不満、不全」 をあぶりだす行為である。
ここに潜む危険は、不満でなく「不安」にコミットしてマーケティングを行うことで、不安からは詐欺やトンデモ商品・サービスが生まれやすい。
I はイノベーションだが、画期的な技術革新という意味でなく、マーケティング段階で明らかになった不足、不満、不全を埋める、満たす製品・ サービスの開発という意味であり、具体性のある開発の意味である。
Dはデリバリーで、イノベーションがもたらした製品・サービスを適正価格でターゲットに届けるシステム作りである。
適正価格でタイミングよくターゲットに届けられない製品・サービスは「絵に書いた餅」に終わってしまう。
MIDサイクルがひと回りした時点でひとつのビジネスモデルが完成することになる。
さらにターゲットの観察、分析から新たな不全、不満を発見し、業務改善を図る小さなMIDを回せばよい。
このMIDサイクルを高速に回す組織作りが、複雑で予測が難しいマーケットで成功し続けるポイントである。

 

2021.6

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