コラム
モデレーション3.0
最近、3.0が流行っているらしいので、モデレーション3.0を考えた。
モデレーションの基本機能は対象(ほとんどが一般消費者)からマーケティング上、有効な情報を引きだすことにある。
モデレーション1.0はこれを可能にできればよい。
- 見ず知らずの人と短時間で「共感的」な会話ができる
- 当該のテーマにマーケティング的発想で分析ができる
の2つがモデレーターに要求される能力である。
その結果、
- 消費者(ユーザー)の生の声を聞くことができた
- 消費行動の理由が納得できた
という評価がクライアントから得られれば、お金をもらってよいとなる。
モデレーション2.0は対象者集団を「(小さな)市場」として扱うことである。
- 対象者集団のグループダイナミックスを醸成できる
- 当該テーマの市場特性と目の前のミニマーケットとの差異が分析できる
という1.0とはレベルの違う能力が要求される。
結果として、
- 消費者が何を考えているかよくわかった
- 自分たちのマーケティング施策の方向性が見えた
という評価が得られれれば、次回もお声がかかるモデレーターになる。
モデレーション3.0は方法論の限界を越えようとする意志とチャレンジ精神である。
モデレーションという方法論の限界は、
- 認知や表現の手段として言語(話しコトバ)を使っている
- 対象を「完全な」消費者と仮定している(経済学の合理的経済人と同じこと)
の2点に集約できる。
ボディランゲージやビジュアルを使うとはいえ、モデレーションの現場での情報量の99%くらいは言語である。
言語表現(発話)は論理的だはなく、極めて「文脈依存的」である。
対象者の発話はネットワークを作りつつ、そのネットワークから制限を受けてしまう宿命を持つ。
また、消費者(あるいは消費行動)そのものは極めて恣意的で不合理である。
前言否定は無意識にやってしまうし、意志表示(この新製品を買いたい!)と行動(発売後、従来品を買う)は齟齬があって当然である。
以上がモデレーションという方法論が持つ限界である。
この限界にチャレンジするモデレーション3.0のために、
- 発話に関する認知科学、脳科学的な基本知識
- 表現に関して「メタファー」の役割の知識
- 消費行動に関しての行動経済学の知識
- 行動観察や絵画表現の分析のためのエスノグラフィーの方法論の習得
などがモデレーターに要求される。
最終結果として
- 対象者との「協働作業」による新しい認識(発見)
- 市場に関する深い理解と戦略の提案
が可能となる。
ここで、問題は、こういったモデレーション3.0はクライアントに評価されないことが多いことである。
- ウチは学術論文を頼んだわけではない
- こんな結果は上司に報告できない
- ウチがやっていることを否定するつもりか
と二度と仕事が来ないリスクが大きい。
3.0の半歩手前、2.5くらいにとどめておけば、「リサーチャーにしておくのはもったいない。ウチのコンサルティングをお願いできないか」などという夢物語が描けるかも知れない。
もちろん、当方は保障しない。
2010,9