コラム

「入りこむ」と「入れこむ」

このところ、たて続けに「入りこむ」というコトバに出会いました。
まず、4月20日、夜10時からのNHK「プロフェッショナル・仕事の流儀」に出演されていたキリンヴィバレッジの商品企画部長、佐藤章さんの発言に「はいりこむ」がありました。
記憶だけを頼りに解釈すると、「(ヒット)商品を企画するにあたって、マニュアルや法則などはない、その企画内容や消費者の気持ちに『入りこむ』ことができないとダメである。」ということだったと思います。
リサーチをたくさんやって、市場も消費者も充分に研究し尽くしたとしてもそれだけでヒット商品は生み出せない、ヒット商品の企画は、消費者の気持ちに深く入りこんだ発想によって生み出されるということのようです。
まして、マーケティングや商品企画の本をいくら読んでもそれだけではダメということでしょう。(もちろん、リサーチや本を読むことは無駄ではなく、大切なことです)

もうひとつは「あたりまえを疑う社会学」という光文社新書の中で「入りこむ」というコトバに出会いました。社会学の方法論のひとつにエスノメソドロジーというのがあるそうですがこれの基本的なスタンスが研究対象や調査対象に「入りこむ」ことだそうです。
民俗学のフィールドワークもそうですが、外から客観的に観察することからは得られない知見が対象の生活や人に「入りこむ」ことから得られるそうです。

この「入りこむ」ことはマーケティングインタビューでも大切なことです。
インタビューテーマを機械的に質問し、機械的にプロービングするだけでは対象者に逃げられてしまいます。
対象者が逃げるということは

  • 質問に答えなくなる。あるいは「わからない」「知らない」を連発する
  • 他の人の発言に適当に同調する
  • 一般的な意見を述べる。マスコミに流布されていることをそのまましゃべる。
  • 主催者側に迎合した発言をする

というような現象として表れます。
こういったリサーチを元に商品企画を行ってもうまくいくわけがありません。
そこで、我々モデレーターは、対象者の中に、あるいはグループの中に「入りこむ」必要あります。
ここで「入りこむ」といいますが、そう簡単ではありません。
対象者の発言に共感的にうなずく、対象者の発言を繰り返す、発言に同調するなどのテクニックがありますが、これだけでは「入りこむ」前に「入れこんだ」印象を与えてまって、かえってしらける危険すらあります。
「入りこみ」は、相手におもねったり、ご機嫌取りすることからは生まれません。
対象者と「対話」を通じて何かをいっしょに作り上げようという気分・雰囲気の醸成からのみ生まれます。(社会学では「対話的構築主義」というそうです)
モデレーターは、対象者に質問ではなく「対話」をしかけるよう心がけるべきです。

余談ですが、NHK「プロフェッショナル」の司会2人はミスキャストではないでしょうか。
特に、茂木健一郎さんは自分の得意分野の脳に「入れこみ」過ぎて、質問内容もトンチンカンだったように感じました。
マーケティングと脳科学はまだまだ距離が大きいようです。

2006,4

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