コラム

モデレーターはイタコとなれ!

定性調査はクライアントと消費者の間にはられたリンクを強く太くする作業である。
クライアントも一人の消費者であるから、消費者のことはわかっていると思っている。
ところが自社のマーケティングを遂行しているうちに「アレ、どうして反応したの?なぜ反応しないの?」との疑問が大きくなる。
マーケターと消費者の間の齟齬が拡大し、はられていたはずのリンクが切れた状態になるわけで、マーケターの不安は増大する。
不安解消のため、身近な消費者である家族、友人・知人にインタビューしてみてもなかなか核心はつかめない。
それは「聞き方と聞かれ方」の理解が不足していて、両者間のリンクが適切にはられていないことが原因である。
解決のためにクライアントと消費者の間に新しいモデレーターというノードを設定し、3者にリンクをはるのがマーケティングインタビューである。
マーケターは聞きたいことはわかっているが聞き方がわからない。消費者は聞かれ方をしらないし、しゃべるべきこともわからない。
この関係の中で、モデレーターは両者の間で、聞きたいことを聞き方に翻訳し、消費者がしゃべったことを聞きたかったことの返答に直す作業を行う。

マーケターは「自覚的にマーケティング活動し、表現力も日々磨いていて、常に発信している」という自己認識でいる。
だから、聞きたいことを聞けば、的確な返答が返ってくるのが当然と思い込み、返答がなかったり、理解できない返答は消費者が悪いとなる。
一方、返答する消費者(対象者)は「自分の行動に無自覚で、自覚しても表現力がなく、表現するインセンティブもない」というアポリアを抱えているが、マーケターはもちろん、消費者自身もそうは認識していない。
この情報の流れに齟齬をきたしたネットワークを修正するのがモデレーターの仕事である。

リンクのはり直しはまず、マーケターの聞きたいことを聞かれる側が聞きやすいように翻訳するインタビューフロー作りから始まる。
マーケターは表現のプロとの自己認識があるので聞きたいことは論理的に整理整頓されているとしてモデレーターと打合わせする。
このときモデレーターはマーケターよりも下の立場になるが、そのままではマーケターの聞きたいことの全ては抽出できない。
両者の立ち位置を逆転させることで明らかになることがある。
モデレーターのポジションがマーケターより上になる根拠は、モデレーターが常に消費者の立場に立って市場を見ていることである。
マーケターとの打合わせでは、「そう、おっしゃいますが、消費者はそこまで考えていないのでは?」のような切り返しで、マーケターの思い込みや 先入観を消費者がを崩すというパターンを維持する必要がある。決してモデレーターがクライアントの考えを批判しないように注意する。
つまり、ネットワークの矢印(有向リンク)をそこに存在しない消費者のところからクライアントにリンクをはる。

インタビューは、マーケターが消費者に直接聞くよりも対象者が答えやすそうに振る舞い、多くの情報(発言)を出してくれたと判断できる ような内容ににする。端的には「やはり、プロに頼んでよかった」と思ってもらえることである。
これがFGIであれば、対象者同士のネットワーク活性化とモデレーターとグループのリンクという形を意識する。
デブリーフィングと分析の段階では消費者のノードを起点にし、モデレーターとリンクをはり、それを解釈してクライアントへのリンクをつなぐ。
このネットワークを作る具体的方法はモデレーターはイタコになることである。
故人(失礼だが消費者)の心に憑依してクライアントに向かって物語を語るという図式になる。
モデレーター個人の見解は最後に求められたら述べるに留め、あくまでも消費者がこう言っていたという物語にする。
この図式を無視して、マーケティングの位置から対象者発言を解釈するというリンクのはりかたは大概うまくいかない。
どれだけ勉強してもモデレーターのマーケティング知識がマーケターを超えることはないし、マーケティング現場にいる人の感覚はつかめない。

 

 

2023.12

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