コラム

インタビューのリズム

FGIにしろ、1on1にしろインタビュー調査のモデレーターは「リズム」を意識すべきである。
日常会話には独特のリズムがある。
母親(父親)と赤ん坊には特徴的なリズムがあるし、、親子、兄弟姉妹の家族内の会話、友人知人との会話にもそれぞれ独特の リズムがある。
メンバーが入れ替わる、場所が変わる、話題が変わる、感情的に上下するなどの要因でリズムは変化する。
リズムが変わる瞬間に会話が途切れることはあるものの会話参加者がリズムの変化に対応できれば会話はつづく。
インタビュー調査は会話より質問(尋問)の要素が強い場合もあるが、回答ではなく対象の心理(気持ち、心情)を引き出す にはリズム良い会話を意識するのがよい。
リズムというとメトロノームが刻む拍子を思い浮かべるが、あれは、あくまでも拍子であってリズムとはいえない。
拍子は機械的に生成され、斉一な行動をとるように人々を規制するが、リズムは人間行動から生まれ空間的広がりを持つ。
拍子は数としてカウントできるが、リズムはカウントできず感覚、雰囲気として体感され、言語記述される。
インタビューのリズムはバーヴァル、ノンバーヴァルの会話から生まれる。
意味ある発言の他、アー、とかウー、の無意味な発言もリズム生成の要素になる。
発言と発言の間の空白、全員が発言しなくなる瞬間(天使が通るという)も含めて参加者全員の意図せざる同期、共振に よって集団全体に空間的に広がるリズムが生成される。
リズムのあるインタビューは自由な発想・発言を引き出し、全員の参加意識でその時のテーマにせまれる。

インタビューのリズムは対象者・モデレーター・観察者の3者の意識の同期、共鳴、共振をつくることでできあがる。
中でもモデレーターの役割は大きい。以下のステップをチェックする。

 ①当のテーマの理解と柔軟な仮説を持ち、調査スタッフ、クライアントの観察メンバーとすりあわせる。
②インタビュー開始時は、滑舌よく、ゆっくり、はっきりとしゃべる。対象者全員に(平等に)視線をおくる。
③対象者の発言は、意味内容とともに、声の大きさ、コトバの明解さ、呼吸を意識して、パーソナリティを理解する。
④プロービングでは、追求(深掘り)だけでなく、発言の同期や共鳴・共感がグループ全体に広がるように意識する。

同じクライアントでも、マーケ部、広告部、開発部ではそれぞれリズム(生態系)が違うことを意識して打ち合わせを行う。
モデレーターがモゴモゴしたしゃべり方で始めてしまうと対象者の声が小さくなる。
デモグラ特性とテーマへの反応からだけでなく、対象者のリズム感(他の発言への同期・共感)を意識してプロファイリングする。
プロービングは対象者個人ではなくグイループ全体に対して行うことを意識する。

モデレーターと観察者は違うリズム感でインタビューに臨んでいる。
インタビューが始まると対象者とモデレーター、対象者間の関係性からインタビューのリズムが生まれる。
観察者はこのリズムに同期させることで的確なメモ入れができることを納得する必要がある。
インタビュー会場のリズムと同期のないメモ入れは、インタビューを中断させるだけでなく、メモの意図も正しく伝わらない。
同じことで追加のメモ入れや修正メモが入るようになると、インタビューそのものを崩壊させるリスクが大きくなる。 インタビューが始まると観察者はリズム作りに直接参加できない。
リズムを修正しようとするより同期を意識した方が得策である。
筆者の長いインタビュー経験から、メモ入れでなく、中間点と最後にバックルームでモデレーターと直接、追加・確認を 話し合うのが得策であるといえる。

 

 

2023.11

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