コラム

「毛づくろい」→「おしゃべり」→FGIは4人

我々はFGIの最適対象者人数を「4人」としてきた。(*『マーケティングリサーチ 定性調査編』P82)
モデレーターの実体験、マジカルナンバー「4±1」、視覚性ワーキングメモリーの限界「4」を根拠としている。

20年以上前のFGIは対象者人数が8人ということも珍しくなかった。
やがて7人、6人となってこれがが主流となって定着した。
対象者6人のFGIの時、デブリーフィングや分析の段階でモデレーターの記憶から「飛んでしまっている」対象者が2人くらいでてしまう体験が重なった。
インタビューをコントロールするだけなら7人、8人も可能だが、グループ全体を「分析」しようとすると6人は多すぎると思い、実験的に5人、4人の対象者のFGIを構成してみた。
結果は4人がベストで、分析だけでなくインタビュー中のグループの雰囲気や対象者各自の発言量も多くなり「喋りすぎ、ダンマリ」の両方がなくなった。
モデレーターの立場からは対象者人数は4人が最善という結論になった。
この体験的事実をなんとか一般化できないかとミラーのマジカルナンバー7±2(ミラー 1954)を持ち出した。
しかし、これではモデレーターの短期記憶の容量限度と最適人数うが合わない。
調べて行くとミラーの提唱した 7からコーワンが4±1(ネルソン・コーワン 2001)をマジカルナンバーと主張していることを知り、我々の体験 事実と一致した。
さらに視覚性ワーキングメモリーには脳科学的に4という限界があることを知った。
この視覚性ワーキングメモリーという概念は複雑で難しいのだが、「時間経過とともに動く図形の軌跡と変化 内容を追える数はヒトの場合は4」ということである。(チンパンジーは10近くあるらしい)
FGIの進行とともにどの対象者が何を発言し、どのように態度変容したかを追っていかないと分析はできない。
その数の限度が生理的に4を超えることはないという事実は、我々の体験の科学的裏打ちと考えてよい。

ロビン・ダンバーも「4人」という数値を提唱していることを最近知った。
ダンバーはゲラダひひの行動観察から「ダンバー数150人」を提唱したことで有名である。
本の出版(翻訳)は1998年と古く『ことばの起源』とのタイトルである。
内容は、人類を含めた霊長類(ゲラダひひも含まれる)の群れは規模の制約と新皮質の面積から決まる。
ヒトの新皮質の面積は最大で、大きな群れで生活できるように進化した。
群れは社会的ネットワークのことで、その規模はヒトの場合150人との制限を持ている。
なぜかというとネットワークを保つためのきーは「毛づくろい」行動だからである。
150人を超えると毛づくろいの時間が足りなくなる。
それを言語を発明することで毛づくろいを「おしゃべり」で代替しシステム化した。
言語を操れるようになった人類は、まず、2人で会話(毛づくろい)を始める。
そこに3人目が加わり、 更に4人に増えて、5人目が入ると会話集団に「乱れ」が発生する。
5人目の人が会話に加われるように最初の4人も努力・援助するがほとんど報われない。
会話から取り残されたり、新たな2人の会話ができてグループが分裂したりする。
これは人間の会話集団の確固たる特性である。
とダンバーは主張している。
FGIのグループはもちろん会話集団である。しかも全員が同じ話題に集中するのが理想である。
その会話集団に参加しつつ、観察・分析するのがモデレーターの役割である。
以上を総合的に考えれば、FGI対象者の最適人数は「4人」という答えが導き出さる。
心理学、脳科学、進化学、実体験の全てからこの答えが検証できたことになる。
(グループワークなど新しい発想も必要な場合、4人以上がよい。多様性の確保)

 

2020.3

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