コラム

『本』「マーケティングインタビュー」

モデレーションの現場からの本が出版されました。
上野啓子「マーケティングインタビュー」―東洋経済新報社―1800円
副題は、問題解決のヒントを「聞き出す」技術となっています。

まず、「マーケティングインタビュー」というタイトルがすばらしい。
グループインタビューという世間で通用している名称は、インタビュー調査のひとつの方法にすぎませんし、心理学からの借り物じみてマーケティングに馴染んでいるとはいえません。
定性調査という言い方もスマートではありませんし、コトバだけでは何のことかわかりづらい、単に定量調査(普通の調査)と区別するために便宜的に付けられた名称という印象です。
我々は、インタビュー調査という言い方をしてきましたが、「マーケティングインタビュー」と言った方が現場感があり、マスコミ的インタビューとの差違もはっきりとわかります。
今後は、このマーケティングインタビューという言い方を使わせていただきます。
サブタイトルは恐らく編集者がつけたのでしょうが、陳腐なタイトルです。
マーケティングインタビューは、問題解決のヒントだけでなく、問題の発見と解決策の方向性提示を一挙に行えることをめざしていますし、「聞き出す」のではなく「創り出す」ことを目標にしているものと考えたいものです。

内容も今まで数冊出ている定性調査やグループインタビューの本と違って、「インタビュー」の現場にフォーカスした、非常にリアリティのあるすばらしいものになっています。
マーケティングインタビュー(定性調査)は、コトバによるデータ収集とコトバによる分析で成り立っているために、マーケティングリサーチ(定量調査)が蓄積してきた統計理論に基づく「科学的」な方法論が確立できていません。
そのせいもあって、従来の本の内容はマーケティングインタビューの方法論より、社会心理学的に偏るか、マーケティング論に偏るかのいずれかで現場では参考にならないものになっていました。
上野さんの本は、こういった誘惑に負けることなく、インタビューの現場からの視点を最後まで持ち続けています。
特に参考になるのは、具体的な応酬話法でモデレーションの方法を解説している部分です。
会話を文章で表す困難さもあって、わかりづらい部分もありますが、このように丁寧にモデレーションの現場を解説した本は他にはありません。
もうひとつ参考になるのは、イメージ測定のやりかたを具体例で示してくれたことです。
アナロジー、役割演技、コラージュ、仮定法の4つが具体的に示されています。
これらの方法は、日本人(の対象者)は苦手とする人が多いのですが、やり方によっては対象者と分析者の双方に新たな発見(昂奮)をもたらします。

同じモデレーターとして、大変参考になる本です。(少なからぬ嫉妬も感じますが。)
我々も現場発想を失わずにモデレーションの方法を深化、発展させて行こうという決意を新たにさせてくれる本です。

2004,8

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