コラム

行動経済学

行動経済学は、伝統的な経済学に心理学、特に認知心理学の知見を取り入れた結果と考えて 間違いなさそうです。
経済学が想定していた人間像には、昔から批判があったようです。
経済学が想定した合理的経済人とは、

自分の嗜好が明確で、それに矛盾がなく、常に不変であること。
そして、その嗜好に基づいて自分の効用(満足)が最大になる選択肢を選択する。
他人は、一切顧みず、自己の物質的利益を最大にすることだけを追求する。

というものでした。超合理的行動者で、ある意味、神に近い存在といえるでしょう。
ただ、こういった前提があった方が、モデルを作りやすいのは理解できます。
これに対して、ハーバートサイモンが主張した経済学が想定すべき人間像、

限定合理性           人間の認知能力には限界がある
満足化原理           最適化基準ではなく、一定水準以上であればそれを選択する
手続き的合理性    合理性は選択の結果ではなく選択の過程や方法についても論じるべき

の方が現実の人間像に近いのはわかりますが、モデルの精度が悪くなりそうです。
事実、このサイモンの主張は長らく無視されたそうですが、人間像そのものが認知科学的です。

一方の心理学は、フロイトのように「なんでもリビドー」で人間心理を説明したかと思うと、その反省 からか、全てを刺激に対する反応で説明しようとした実験心理学まで、いずれも人間を単線的に 捉えていたといえます。
そこに人間の心を「情報処理系」とする認知心理学が発展してきて、「リビドー」「刺激ー反応系」 の発想から解放され、新しい人間理解の方法が提案されました。
この認知心理学(認知科学)の成果を経済学に取り込んだのが「行動経済学」です。
さらに最近の脳科学の成果を取り入れて「神経経済学」といえる分野が生まれてきているそう です。

「行動経済学」友野典男著(光文社文庫2006)、「行動経済学入門」多田洋介(日経新聞社2003)を参照

2006,11

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