コラム

「食卓」のコーホート効果

今回は、ADKの岩村暢子さんの著書「変わる家族 変わる食卓」がおもしろかったので紹介します。
この本はADKが1998年から毎年実施している「食DRIVE」という定性パネル調査の結果の分析という体裁で書かれています。(1960年生まれ以降の主婦が母集団)
この中で2つのコーホートが発見されています。
そして、このコーホートが中学校の「家庭科」教育(教科書)にあったという指摘には新鮮な驚きを感じました。
岩村さんはコーホートという表現を使っていませんし、定性データを使っているので「コーホート分析」ではありませんが、食卓という複雑に変化するものをコーホート分析の視点で見事に捉えています。

(コーホート分析に関しては「図解によるマーケティングリサーチ」2001 P90参照)

この本では、コーホート分析を意識していないので食卓の変化=全体効果(変化)を
  時代効果
  加齢効果
  コーホート効果
の3つに分けていません。
コーホート効果は、全体効果の段差の説明として発見されています。

まず、岩村さん達が発見した食卓の変化をみてみます。(もちろん、これこそがこの本の価値です)

第1章 食を軽視する時代 では、
1960年以降に生まれた主婦は、家族の食事(食卓)よりも自分と家族の娯楽を重視すると指摘されています。
家族の食事はおにぎりで済ませて、ディズニーランドで遅くまで遊ぶことに何の後ろめたさも感じない主婦(お母さん)が典型としてあげられています。

第2章 「私」指向の主婦たち では、
自分が作りたい気分の時に、作りたい気分のものを、作りたいように作ることを「手作り」と称する主婦。
家族メンバーのことを斟酌しない自分中心の考え方が食卓に浸透していることが指摘されています。
当然、ここでは母から娘への味や調理法の伝承は断ち切られています。

第3章 子どもで揺れる食卓 では、
子ども中心といいながら、食卓(調理)を通したコミュニケーションはなく「食べてくれればいい」という、
飼育発想(これは石井の感想)の浸透が指摘されます。
当然、躾とか、手伝わせるということはおこりません。

第4章 個化する家族たち では、
同じ食卓を囲んでいても、家族メンバーそれぞれのメニューが違ったり、CVSで自分の夕食を買って帰る夫、「実家外食」で何も手伝わない娘(主婦)など大人になりきれない夫婦とそれを認める親の世代が指摘されます。
世の中全体の幼児化傾向です。

第5章 外向きアンテナの家族と食 では
外部の情報に直接さらされて、変転する食卓が指摘されます。
あるべき日本の朝食は、旅館の朝食にしか残っていないということが食卓のあらゆる場面でおきているということです。
研究努力して本物を作るより、お手軽にそれっぽいものを作る方が選択されています。

第6章 現代「食」志向の真相 では、
まとめ的に「配合飼料型メニュー」とか「単品羅列型メニュー」など現代の食卓の特徴が指摘されます。

第7章 言っていることとやっていることは別 では、
調査への回答者としての主婦と実際の食卓とのギャップが、調査方法論の問題と回答の分析の問題 (意識と行動の問題)としてまとめられています。

以上の分析をしているとき、ある年齢を境にメニューなどの変化に段差があることに気づいて、1960年生まれ以前のデータも含めて年齢別に並べて見たそうです。(コーホート分析の第1歩) そして、
   1959年生まれ以降   配合飼料型
   1968年生まれ以降   単品羅列型

というコーホートが発見されています。 コーホートとは、全員が等しく影響を受ける「時代効果」と加齢の影響による「加齢効果」だけでは説明できないある集団が持つ特性(時代が変わっても、年齢が加わっても変わらずにある特性)のことです。
従って、その集団(世代)が前後の世代と違った刺激を受けたことが発見できないとコホートの要因は説明できません。

ここで目をつけたのが「家庭科」の教科書でした。
そして、1969年と1977年の指導要領が大きく変更になっていることがわかります。
ちょうど2つのコーホートが中学生の時にあたります。
我々が驚いたのは、内容もさることながら、週1コマ程度であろう、しかも受験には関係なさそうな家庭科 教育が食卓に大きく影響していたという発見です。
食関係のマーケティングを考えるとき、いろいろな示唆に富んだ発見です。

    「変わる家族 変わる食卓」は、勁草書房から1800円で発売されています。
                         ISBN4―326-65278-0

2003,5

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